日本遺産にも選ばれている中津の鱧料理
山国川が森の恵みを運んでくる中津近海（豊前海）は、遠浅の海が広がる栄養豊かな漁場です。そして、広大な干潟は、鱧の餌となる小さな蟹や貝などの魚介類が育ちやすい環境になっています。
そんな栄養豊かな豊前海で育つ中津の鱧は、特に身が大きく「つの字鱧」や「真鱧（マハモ）」と呼ばれています。また、中津の鱧は骨が柔らかく、細かい骨切りができるという特徴があり、県外の料理人からも贔屓にされています。
トロ箱に入った鱧
丸々と太った大きな鱧が真っすぐなままではトロ箱からはみ出してしまうため、魚体を途中で折り曲げて箱に入れられている様子がひらがなの「つ」の字に見えることから、「つの字鱧」という名前で呼ばれるようになりました。
鱧の魚体全体には、長くて固い小骨が3,000本以上あるため、下処理をしっかりと行わないと食べることができません。美味しく鱧を食べるための特殊な調理法が「骨切り」です。
開いた鱧の皮を下に、身を上にして包丁を入れていきますが、骨を切るためには、皮1枚を残しつつ、身の部分は完全に切らなければならないという繊細な技術が求められます。（そうしないと、骨切りの意味がない）更に、鱧の身一寸（約3cm）に24～26筋もの包丁を均一に入れなければ、美味しい食感の鱧をならないという、料理人が包丁を使う上で、最高峰の技量を要するとされるテクニックが求められます。
一説によると、この骨切りの技法は、江戸時代に中津の漁師や料理人が生み出し、全国に広まったと言われています。
中津の鱧は底びき網という漁法にて漁獲されます。これは、海底近くに生息している鱧を漁船から投下した袋状の網で漁獲する漁法です。夏場の最盛期には、1隻で1日100kgほどの漁獲があり、中津市内を中心に、西日本全域で食されています。
底引き網漁（図解）
鱧が人気なのは、上品な味もさることながら、その生命力の強さです。京都では祇園祭は開かれる真夏を中心にその前後に最も食されます。もちろん夏場が旬なのは間違いありませんが、秋の鱧も身が肥えて絶品です。かつて中津の家庭では一般的に「鱧ちり鍋」と言って、昆布などでとったスープに鱧と白菜などの野菜を入れ食べられていました。
「つの字」になった鱧
鱧しゃぶ、刺身、焼き鱧、天ぷら、寿司など、多彩な料理で鱧本来の甘みを楽しむことができますが、近年では蒲焼き、ハモしゅうまいなど中津市内の飲食店では趣向を凝らした料理を提供しています。
中津の鱧料理は、日本遺産の構成文化財にも選ばれています。
